~失敗を回避する30問・30答
私は、2016年から行政書士の開業を目指す方に、「開業で失敗しないための準備」をテーマにゼミ(「行政書士合格者のための開業準備実戦ゼミ」)を主宰しています。
そこで、ゼミで受けた質問の中から、「失敗を回避する」という観点で、「準備」「不安」「働き方」「取扱業務」「事務所」「集客」「面談」「受任」そして「番外編」の9つのテーマに分けて30のQ&Aを選びました。
質問者はあなたと同じ開業前の方です。「そういうことか」「なるほど」と合点が行ったり目から鱗が落ちることや「そこが聞きたかった!」という質問がきっとあります。ゼミに参加している気分でお読みください。
なお、以下の文書は、ゼミ主宰の竹内豊の著書『行政書士合格者のための「開業準備」実践講座』(税務経理協会)から引用しました。
1.「準備」について
Q1.コンセプト
開業直後からスムーズにスタートするために、準備の段階で「これはしておくべき」ということがあれば教えてください。
コンセプトを考えることをお勧めします。コンセプトとは、その製品(サービス)の「本質的な顧客価値の定義」を意味しています。本質的な顧客価値を定義するとは、「本当のところ、誰に何を売っているのか」という問いに答えることです。
それには、まず「サービスを売ろうとしている人」(=顧客)のことをトコトン考え抜くことです。その人の行動、物事の考え方などを想像し、モデルになる人がいればその人を観察するのです。そうすると売ろうとしているサービスの現時点での足りないところが浮かび上がってきます。その足りないところを開業までにできるだけ補強していくことが「開業準備」といえます。
コンセプトを決めると「開業までにすべきこと」が明確になるので、準備を効率よく進めることがでます。その結果、開業後に“負のスパイラル”に陥ることを回避できるはずです。
A1.開業までに「コンセプト」を決める。
Q2.準備の程度
開業に向けて準備が大切なことはよくわかりました。しかし、準備には「ここまでやれば完璧」といったゴールがありません。どの程度まで準備すれば開業してもよいでしょうか。
開業して最もやってはいけないことは、依頼者に迷惑をかけることです。そこで、開業してもよい準備の基準として、「依頼者に迷惑をかけない能力の習得」が挙げられます。
具体的には、自分が取り扱おうとしている業務について相談をうけたときに、着手から問題解決まで俯瞰できる能力を習得することです。なお、その能力がなければ、面談の場で相談者に問題解決までの道筋(=ロードマップ)を提示できないので受任はまず無理です。
A2.準備の目安は、開業までに「ロードマップ」を描けること。
Q3.開業資金
開業資金はどのくらい必要ですか。
「貧すれば鈍する」という諺があるように、資金がショートして生活に追われるようになると、無理をして能力を上回る仕事を受任して業務遅滞を発生させたり、「怪しい誘い」に乗って法を犯してしまうなどトラブルを引き起こす危険が高くなります。また、開業当初は、想定以外の出費がかさむことがしばしばです。
それぞれの置かれた立場によって違うので一概にいくらとは言えませんが、開業当初から資金のことを心配しながら業務を行うとミスもしがちになります。心に余裕を持って業務に集中するためには、開業の初期費用を除いて2年間程度の生活費を用意しておくのが望ましいでしょう。
A3.資金ショートはトラブルの原因になる。開業資金を貯めるのも準備のうち。
Q4.実務研修
現在サラリーマンをしています。在職しながら本格的な開業の前に“勉強”として登録しようと思っています。登録をするとどのような情報を得ることができますか。
行政書士となる資格を有する者が、行政書士となるには、行政書士名簿に、住所、氏名、生年月日、事務所の名称及び所在地その他日本行政書士会連合会の会則で定める事項の登録を受けなければなりません(行政書士法6条1項)。
登録をすると、日本行政書士会連合会から毎月『月刊日本行政』という情報誌が送られてきます(内容の一部は、日本行政書士会連合会のホームページで一般に公開しています)。また、所属している行政書士会によっては月刊誌が送られてきたりインターネットで実務に関する情報を得ることもできます。
さらに、日本行政書士会連合会や所属行政書士会等の実務研修にも参加できます(ただし、研修のほとんどは平日に開催)。最近はオンライン講座も開催されています。
これらの研修のほとんどは、実践的で具体的な内容です。そのため、研修内容に関する基本的な事項(許認可関係では許可要件等、民亊関係ではその内容に係る法律)を理解していることが前提で行われます。準備の段階で基本事項を押さえてから参加すれば有意義なものとなりますが、準備を怠って参加してしまうと消化不良を起こします。ご注意ください。
A4.行政書士会の研修は実践的。基本概念を理解してから参加すること。
2.「不安」について
Q5.不安との付き合い方
開業して経営がうまくいくか不安です。どうしたら安心できるようになるでしょうか。
自分で納得できる準備をすること。それしかありません。ただし、経営者として事業を継続するに当り、不安と付き合っていくのはある意味宿命です。なぜなら、経営の成否は顧客に依存する部分が多く、その顧客を完全にコントロールすることは不可能だからです。
まず開業に向けてしかるべき準備をする。そうすればきっと「勇気」が生まれます。そのうえで「経営に安定は付きもの」と割り切る。さらに不安とうまく付き合っていく自分なりの術を身に着ける。そうすれば、不安に押しつぶされることは回避できると思います。
A5.納得の準備は勇気を生む。
Q6.開業への反対
妻が開業に反対しています。どうしたら説得できるでしょうか。
身内から反対されている間は、開業はしない方がよいでしょう。そのような状態で開業してもおそらくうまくいきません。それどころか、大切な人を失うことにもなりかねません。
実は、私自身、合格直後に開業しようと考えていました。しかし、家族(その当時は、独身だったので父親)やほとんどの友人・知人から開業に反対されてしまいました。冷静に考えれば、試験合格した程度の知識では依頼者に満足行くサービス(速やかな問題解決)を提供できるはずもありません。そもそもこのような状態で依頼をされるはずもありません。このような「当たり前のこと」も、合格直後の私は理解できていなかったのです。
そこで、一旦開業を延期して在職しながら知識の習得などの準備をすることにしました。結局、準備に3年を費やしました。合格から3年後に開業したときは、家族や友人・知人は祝福してくれました。きっと準備の間の私の熱意を感じ取ってくれたからだと思います。
私もそうでしたが、合格直後はテンションが高くなっていて、開業すれば成功が待ち受けていると勝手に思いがちです。まさに自分本位の塊です。一度クールダウンする必要があるでしょう。
反対してくれる人はあなたのことを心配しているのです。説得をしようなど考えず、反対意見に耳を傾けて、その意見を参考にして準備をしましょう。そして、自分が納得できる準備が整ったら、改めて開業への思いや開業後のストーリーを話してみましょう。自分自身が楽しく話せて、反対していた人が「これなら大丈夫だね」「開業が楽しみだね」と応援してくれるようになれば、開業も成功する確率が高くなると思います。
A6.合格直後はテンションが高い。クールダウンして反対意見に耳を傾けよう。
Q7.情報の見極め方
開業に関する情報が溢れていて混乱しています。情報の真贋をどのようにして見極めたらよいでしょうか。
玉石混交、様々な開業に関する情報が入り乱れています。中には、この通りにしたら、「真っ逆さまに負のスパイラルに陥ること間違いなし」というものも少なくありません。
間違いなく言えることは、「仕事ができない人には依頼はしない」ということです。この観点に立って情報の取捨選択を行えば、怪しげな情報に振り回されることを避けることができます。
A7.「仕事ができない人には依頼はしない」という観点に立って情報を見極める。
3.「働き方」について
Q8.使用人行政書士
「使用人行政書士」として行政書士事務所で働くことができると聞きました。使用人行政書士のメリットとデメリットを教えてください。
まず、「使用人行政書士」の概要を説明しましょう。行政書士は、他の行政書士または行政書士法人の「使用人」として行政書士業務(行政書士法1条の2・1条の3)に従事することができます(行政書士法1条の4)。このように、自らは事務所を持たず他行政書士の事務所で働く「使用人行政書士」(”勤務行政書士“)は法認されています。
「使用人行政書士」は自ら依頼を受けて業務を行うのでなく、雇用行政書士・法人が受任した業務にその指導の下で従事・代理して業務を行います。また、使用人行政書士が複数の行政書士・法人の使用人を兼ねることは、法律上禁じられていません。
行政書士登録(行政書士法6条1項)をする際の「事務所」は、主たる勤務先の事務所・法人のそれを指すものと解されています。
このように、使用人行政書士は、使用人として給与を得て、使用者である雇用行政書士・法人から指導を得ながら実務を習得できるというメリットがあります。そこで気を付けたいのは、自分が専門にしようと考えている業務がその事務所で取り扱っているかということです。ほとんどの事務所は「建設業」「運輸業」「入管業務」「相続業務」といった具合に専門特化しているからです。相続業務をしたいのに建設業専門の事務所に入所したら「興味のない業務」をすることになってしまいます。
また、当然ですが行政書士によっても指導方法は異なります。面接で自分に合うか慎重に見極めるようにしましょう。使用人行政書士といえども一人の行政書士であることには変わりありません。「手取り足取り指導してもらえる」といったような甘い考えは持たないことです。
勤務年数ですが、一般的に使用人行政書士の期間は数年のようです。近い将来独立することを前提に考えておいた方がよいでしょう。
A8.使用人行政書士も一人の行政書士。「教えてもらう」という甘い考えは持たないこと。
Q9.副業
いきなり独立はリスクが高いので、当面は副業で行政書士を行うつもりです。実際のところ副業で行政書士業務を行うことは可能でしょうか。
勤務先が副業を免じているのであれば可能でしょう。ただし、依頼者にとっては、当然ですが、依頼した行政書士が「副業」か「専業」かは知ったことではありません。本業が多忙になってしまって副業の行政書士業務に時間を割くことができなくなってしまっても、「本業が落ち着いてから申請しますのでしばらくお待ちください」という訳にはいきません。
自分が行政書士を副業としたときに、依頼者に「迷惑」をかけないか十分シミレーションしてみて、問題がなければ副業も可能ではないでしょうか。
A9.依頼者に不利益を与えないのなら副業も可。
4.「取扱業務」について
Q10.取扱業務の選定
行政書士の広範な業務の特性を活かして、「来るものは拒まず」の精神で営業をしていこうと考えています。ただ、どのような依頼が来るのか不安もあります。取り扱う業務は絞った方がよいでしょうか。
ほとんどの相談者は、問題が発生したら、まずインターネットで解決方法を調べます。中には本を読んだり専門家の無料相談を利用したり官公署に問合せをする人もいます。そうしているうちに自然と知識を習得していきます(相談者のセミプロ化)。それでも自力で解決できないので「専門家」としての行政書士に相談するのです。
そのため、一定以上の難易度のものしか相談されません。「なんでもやる」「来るものは拒まず」というスタンスでは、ふつう「速やかに問題を解決したい」と切に願っている相談者の期待を面談の場で満たすことは難しいでしょう。そうなると、必然的に受任率は低下してしまいます。
開業直後から受任するには、準備の段階でセミプロ化した相談者を、面談の場で「さすがは専門家!」と言わしめる知識を習得しておくことが求められます。また、業務を絞るとターゲットも明確になるので、効果的な集客にもつながります。
行政書士が取り扱うことができる業務と、自分が実務でこなせる業務はイコールではありません。「来るものは拒まず」の精神は頼もしいですが、えてして「何でもできるは何にもできない」になりがちです。十分お気を付け下さい。
A10.行政書士業務と、自分が実務でこなせる業務はイコールではない。
Q11.専門分野を決める基準
行政書士の業務は広範なため何を取り扱うか迷っています。専門分野を決める基準があれば教えてください。
「好きこそものの上手なれ」という諺のとおり、「好き」を基準に決めるべきです。受任するには、セミプロ化した相談者を凌ぐ知識が求められます(自分より知識が少ない者には絶対に依頼しません)。その程度の知識(専門知識)を有するには、一定以上の学習が必要です。「好き」な分野であれば、苦も無く、しかも夢中でその知識を吸収できます。反対に、「儲かるから」といった動機では、「専門家」と言われる「壁」を突き破るのは困難を伴うでしょう。
知識が深くなればなるほど難易度の高い案件を受任できるようになります。そうなれば、自ずと報酬は高く成ります。ぜひ、「好き」を基準に専門分野を決めて、楽しみながら知識を深めて満足行く報酬を得てください。
A11.専門分野は「好き」を基準に決める。
Q12.遺言・相続業務の特徴
専門分野の一つにこれは入れておいた方がよいという業務はあますか
遺言・相続分野がお勧めです。なぜなら相続から逃れられる人はいないからです。だから、友人・知人や会社関係など“顔がわかる人”のすべてが見込み客になります。
また、顔がわかる人からの依頼は、わからない人からの依頼に比べて、一般に仕事がしやすく入金も安心できます。
実際、多くの方が遺言執行や遺産分割の手続きが思うように進まずに苦労します。ぜひ、遺言・相続業務を専門分野の一つにして、身近な人をサポートしてください。
A12.相続から逃れられる人はいない。だから、“顔がわかる人”のすべてが見込み客になる。
5.「事務所」について
Q13.事務所の賃貸
事務所を借りる場合の注意点を教えてください。
行政書士は、その業務を行うための事務所を設けなければなりません(行政書士法8条1項)。事務所は2以上設置できず、行政書士1人につき1か所に限られます(同法8条2項)。また、使用人である行政書士等は、その業務を行うための事務所を設けてはならないこととされています(同法8条3項)。
これらの規定は、行政書士が事務所を設けない場合や業務を行うための事務所を2以上設けるような場合には、責任の所在が不明確となり、依頼者や行政庁からの照会や責任追及等の際に支障をきたすおそれがあること、また、行政書士の資格は特定の個人に与えられるものであり、複数の事務所を持つことを許すと、その業務の正確かつ迅速な遂行に欠けるおそれがあること等のため設けられたものです。
さて、事務所を賃借する場合、所有者から、行政書士の業務を行う事務所として使用することを承諾する内容の書面(=「使用承諾書」)を得られることが行政書士の事務所として登録できる第一の条件になります。
また、シェアオフィスの場合は、守秘義務が守られる環境であるかがポイントになります。そのため、賃貸借契約を締結する前に、登録する行政書士会に図面を見せて事務所として使用できるか登録申請をする前に確認することをお勧めします。
なお、事務所は、行政書士が現実に業務を処理する本拠であり、行政書士個人としての住所とは観念的に異なるものですが、住所と事務所が同一の場所であっても差し支えありません(いわゆる「自宅事務所」)。また、数人の行政書士が同一の建物(部屋)に事務所を設けることも可能です(以上引用・参考『詳解行政書士法』P129・130)。
A13.事務所を賃借するには、所有者から「使用承諾書」を得ることが条件になる。
Q14.自宅事務所
まずは自宅事務所でスタートしようと考えています。自宅事務所で気を付ける点はありますか。
開業するには、行政書士名簿に、住所、氏名、生年月日、事務所の名称及び所在地その他日本行政書士会連合会の会則で定める事項の登録を受けなければなりません(行政書士法6条)。そして、登録されると日本行政書士会連合会のホームページの「行政書士会員検索」でだれでも「氏名」「登録年月日」「事務所の名称」「事務所所在地」「事務所電話番号」等を見ることができようになります。したがって、自宅を事務所にした場合、「自宅住所」等が公表されることになります。そのため、たとえば依頼者とトラブルを抱えてしまった場合、いつ何時自宅に押し掛けられるかもしれないというリスクが発生します。
このように自宅での開業は安全に関して不安を拭えないと言わざるを得ません。自宅開業の場合は、セキュリティーを強化することをお勧めします。
A14.自宅で開業する場合は、セキュリティー強化が必要。
6.「集客」について
Q15.行政書士の紹介の仕方
先日、知人に「行政書士に合格したんだ」と言いましたが、「行政書士って何をしてくれる人なの」と言われてしまいました。そこで、私なりに説明をしたのですがさほど関心がない様子でした。これから友人・知人に行政書士を開業するに当り、どのように行政書士のことを紹介すれば関心を持ってもらえるでしょうか。
行政書士について関心が高いのは、受験予備校、受験生、行政書士くらいしかいません。ですから、「行政書士とは、・・・」と一般の方に話してもふつうは「つまらない話」と片付けられてしまうのが落ちです。
幸い、行政書士は「法律系の国家資格」という程度は認知されていますので、「私は、行政書士(=法律系の国家資格)を活用して、あなたに(または「市民」に)このような法務サービスを提供する」というように、「誰に何を提供する(できる)」と具体的に伝えましょう。そうすれば、引合いにつながる確率はグッと高くなるでしょう。
A15.行政書士について関心が高い一般人はまずいない。行政書士を活用して誰に何を提供できるか説明すること。
Q16.在職中にすべきこと
行政書士試験に合格した後も仕事は続けています。数年の内に開業したいと思っています。在職中にしておくとよいことはありますか。
円満退職を心がけること。上司・同僚・部下などの人のつながりを開業後も継続できるようにしておけば、在職中の人脈はそのまま見込み客につながります。
そのためにも、在職中の仕事は最後まで責任を持って行い、惜しまれながら退職できるようにしましょう。
A16.円満退職は開業後の仕事につながる。
Q17.集客優先の思考
行政書士のブログを見ていると、「(実務の勉強は後回しにして)まずは集客」「依頼を受けてから学べばなんとかなる」「実務が一番の勉強」といったような「集客最優先」の話をよく耳にします。ただ、準備をそこそこにアプローチをして依頼を受けてしまったら、仕事を思うように進めることができなくなって依頼者に迷惑をかけてしまうのではないかと心配です。仕事は取ってからなんとかなるものですか。
「まずは集客」「依頼を受けてから学べばなんとかなる」「実務が一番の勉強」といったような「集客優先」の話に通底していることは、「準備はそこそこにして、早く稼ぎたい」という「自分本位」の考えです。この「自分本位」の考えでは、受任はおろか集客も覚束ないでしょう。なぜなら、準備不足の「ふわふわの実務脳」では、相談者に面談の場で、着手から業務完了までの道筋である「ロードマップ」を提示できないからです。
運よく(相談者にとっては運悪く)受任できても、ロードマップを提示できなければ、実務の難易度と量に則した「満足行く報酬」を得ることはまずできません。そして、業務遅滞を発生させて、依頼者から損害賠償を請求されたり行政書士会から懲戒処分を受けることにもなりかねません。
物事には「順序」があります。しっかりと準備を整えて実践に臨むというのが真っ当な考え方です。「準備はそこそこにして、早く稼ぎたい」と思うのは勝手ですが、そうは絶対問屋は卸さないことは世の常です。「急がば回れ」というように、「顧客優先」の観点に立って準備をすれば、高い受任率と満足行く報酬は自ずとついてくるでしょう。
A17.物事には「順序」がある。準備を整えてから実践に臨むのが真っ当な考え方。
Q18.Wライセンスと受任
社会保険労務士や司法書士などの他士業の国家資格や相続関係等の民間資格を取得しておくと受任に有利ですか。
相談者は、「保有している資格の数が多いから」とか「難関資格を取得しているから」という理由で依頼をしません。その専門家が「自分が抱えている切実な問題を速やかに解決してくれる」と確信できるから依頼するのです(その者に任せるのに不安を感じれば依頼しない)。
資格予備校は、「行政書士の次は司法書士」といったように資格が増えれば依頼も増えるような宣伝をしていますが、それは「商売」ですから当然のことです。確かに、業際の問題上、資格を増やせばその分、取り扱える業務も増えます。しかし、依頼を受けるには、その分野で一定以上の知識が求められます。その知識を習得するのは試験合格とは別物なのです。「資格をたくさん保持していれば(取扱い分野が増えるから)依頼を受けやすくなる」いという浅薄な考え方で他の資格を取得しようとするのであれば、時間とお金の無駄になるでしょう。一方、自分が専門にしようと考えている業務に他の資格が必要であれば、その資格取得に挑戦するのもよいでしょう。
A18.相談者は、「問題を速やかに解決してくれる」と確信できる者に依頼する。
Q19.ホームページ
開業したらまずはホームページを開設しようと思います。ホームページで気を付ける点はありますか。
当然ですが、一般市民は、行政書士がホームページに「取扱業務」として掲載した業務を、その行政書士が専門家(プロ)として遂行できると認識します。したがって、掲載した業務に関しては、面談の場で受任から業務遂行までの「ロードマップ」を描けるようにしておかなければなりません。
ロードマップを描ける能力がないにも関わらず、取扱業務として掲載することは、「できない業務をできる」と宣伝したことになります。このようなことは、「不当誘致等の禁止」(行政書士法施行規則6条2項)に抵触するおそれがあります。
身を守るため、なにより依頼者に良質な法務サービスを提供するために、ホームページには、「できること」を掲載しましょう。
A19.「できない業務」を「できる」と宣伝すると、「不当誘致等の禁止」になる。
Q20.ブログ
開業したらブログをアップしようと思います。ブログで気を付ける点はありますか。
受任した案件の内容を事細かに「報告」している行政書士のブログを見かけます。たとえ、依頼者を匿名にしていてもこのようなことは守秘義務に違反する場合があります。
ここで、行政書士の守秘義務について見てみましょう。行政書士は、正当な理由がない限り、その業務上自己が取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはなりません(行政書士法12条)。これは、行政書士業務が依頼者の権利義務と密接な関係を持つため、依頼を受けた事件に関連し個人の秘密を知る場合が多いことから課せられたものです。
本条でいう「正当な理由」とは、本人の許諾や法令の規定に基づく義務があること等をいいます。ブログで受任した内容を詳細に公表することは「正当な事由」に該当するとは思えません。もし、依頼者が、行政書士がブログで依頼内容を公表していたら、たとえ匿名であっても気分を害すでしょう。また、場合によっては競合他社に新規事業の内容を知られてしまうなど依頼者に損害を与えてしまうことも考えられます。
なお、守秘義務に違反すると、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられる場合があります(行政書士法12条)。
行政書士として活動する場合、当然ですが行政書士法に基づく責務が求められます。行政書士を称してブログを書く場合も例外ではありません。その点に十分留意してください(以上参考『詳解行政書士法』P136・137)。
A20.ブログでは「守秘義務」に留意すること。
Q21.無料相談
開業してしばらくは「無料相談」や「無料セミナー」で集客をしようと考えています。無料相談で気を付けることはありますか。
まず確認しておきたいことがあります。たとえ無料でも行政書士として相談に応じれば、発言に対して責務は発生します。これは忘れないでください。
さて、無料相談で集客をお考えのようですが、確かに、「有料」と比べれば相談者にとってハードルが低いと思います。ただし、ハードルが低い分、「それほど困っていない人」も相談に訪れます。そのような人のほとんどは筆者の経験上「有料」で依頼をしません。その点をあらかじめ覚悟しておいた方がよいと思います。これは無料セミナーも同様です。
無料相談では当然ですが報酬が発生しません。また、相談に数時間を費やすので、実際は「見えないコスト」が発生しています。そのため、無料相談を無暗にすると事務所経営を圧迫してしまいます。
このように、無料相談は集客しやすいというメリットがあります。一方、無料でも責務は発生します。また、受任につながる確率は低く、継続すると経営を圧迫してしまいます。以上の点を踏まえて、無料相談を経営戦略に取り入れるか検討してみてください。
A21.無料相談でも責務は発生する。
7.「面談」について
Q22.面談の留意点
特に開業当初に面談で気を付ける点はありますか。
「わからないこと」をわかった振りをして、相談者に希望を持たせる回答をしてしまうこと。これはしてはいけません。
たとえば、相談者の話しを聞いてみても許可を取れるか判断しかねるのに、相談者が「許可が下りる」と思わせるような発言をしてしまう。それを聞いた相談者は、許可が下りることを前提に、事務所や営業所を借りるなど準備を進めてしまう。そして、許可が下りない場合は、行政書士が損害賠償請求を受けることもあり得ます。したがって、自信が無いときは、「検討いたします」と言って、その場での回答を留保すること。
また、行政書士は「相談だけ」受けたつもりでも、相談者は「依頼をした」と思っている(その逆もある)といった、「思い違い」のトラブルも多くあります。このトラブルは、更新許可の期限が過ぎてしまうなどの重大な問題につながるおそれがあります。相談を受けた場合は、相談だけなのか、それとも依頼をするのかを必ず確認するようにしましょう。
A22.相談者に「希望を持たせる発言」は慎重にすること。また、「依頼する・しない」を相談者に確認すること。
8.「受任」について
Q23.依頼応諾義務
行政書士は「依頼に応諾する義務」があると聞きました。知識不足で依頼者の期待に沿えないような場合でも、依頼を受けなければならないのでしょうか。
行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができません(行政書士法11条「依頼に応ずる義務」)。そして、この規定に違反すると100万円以下の罰金に処せられます(同法23条1項)。
国民からの業務の依頼に対して行政書士が原則的な応諾義務を法定され、その違反に罰則が付されているのは、専門士業の業務独占が国民の権利実現など社会公共的理由に基づくことに対応しています(『コンメンタール』P110)。
もっとも、本条に記されているように、「正当な事由」がある場合には依頼を拒むことができます。正当な事由とは次のようなケースが考えられます。
・病気、事故等行政書士が業務を行い得ない場合 ・依頼者がその書類を犯罪その他不法な用途に供せんとする意図が明白な場合 ・行政書士の業務の範囲を超えるもので、他の法律により制限されている業務の依頼である場合 ・依頼された事件が多く、依頼者が希望する日時までに業務を完了できない場合 等 (以上『詳解 行政書士法』P136) |
したがって、知識不足で、依頼者の期待に沿えないと判断した場合は、その旨を伝えて断るか、依頼者の期待に即応できる行政書士(業際問題が生じる場合は、他士業のパートナー)を紹介するのがよいでしょう。
なお、やってはいけないことは、依頼者の期待を叶える能力がないにも関わらず、「仕事を得たい」という自分本位の考えで受任してしまうことです。
A23.行政書士は「依頼に応諾する義務」があるが、「正当な事由」があれば依頼を拒むことができる。
Q24.怪しい相談
「怪しい相談」もあると聞きます。怪しい相談とそうでないものの見極め方を教えてください。
「親切な人」には注意すること。「親切な人」とは面識がないのにも関わらず仕事を紹介してくれるような人のことをいいます。
たとえば、「先生に入管業務を1件5万円で月に10件紹介します。書類はこちらで手配しますから、先生は書類のチェックと入管への取次をお願いします」といった具合に、やたらに親切にアプローチしてきます。このような“親切”な申出は虚偽申請です。絶対に受任しないこと。
「親切な人」からの依頼に共通しているのは、「直接依頼者と会えない(または連絡を取れない)」ということです。もし、「怪しい」と感じたら、「直接本人と話をさせてください」と言ってみましょう。大概は「それでは結構です」となるはずです。
なにより、「世の中うまい話はない」という世を生きる上での原理原則を肝に銘じておきましょう。そうすれば、このような「怪しい相談」に引っかかることはないはずです。
A24.「親切な人」には注意すること。世の中うまい話はまずない。
9.番外編~「竹内」に聞きたいこと
Q25.初受任
初めての仕事はどのようにして受任しましたか。
合格してから開業までの3年間に、友人・知人に会ったら「いつ・どこセミナー」を開催して遺言・相続について学んだことを伝えていました。そのことは、勉強の励みにもなり、「見込み客」の開拓にもつながりました。
その結果、開業前に遺言書作成を2件、遺産分割を1件の合計3件の「予約」を頂き、開業後に正式に受任しました。
知り合いからの依頼は、プレッシャーもありましたが、人となりが分かっていた分、安心して業務に取り組むことができました。開業前の「いつ・どこセミナー」をぜひお試しください。
A25.「いつ・どこセミナー」で開業前に「予約」を得る。
Q26.労働時間
毎日どのくらいの時間働いていますか。
「一日何時間働く」とは決めてはいません。「今日はここまでやる」と決めたことが終われば一日の仕事は終了です。予定どおりに終わらないことももちろんあります(その方が多いかもしれません)。その場合、期限が迫っている案件がある場合は、長時間労働になることもあります。ただし、睡眠時間(7時間)を削るような働き方は避けるようにしています。
A26.労働時間は決めない。「やること」が終わればその日は終了。
Q27.日常の心の持ち方
毎日の生活で心がけていることはありますか。
健康第一を心がけています。そのため規則正しい生活と適度な運動を行っています。具体的には、毎日5時に起床して、10時に就眠、そして犬と一緒に1時間程度の散歩を毎日しています。
開業したらほとんどの方は個人事業主になります。個人事業主は健康を害してしまうと代替えが効きません。不規則な生活習慣は病気に直結します。十分気を付けてください。
A27.個人事業主は健康第一。規則正しい生活習慣を心がける。
Q28.経営の安定
開業してどのくらいで安定しましたか。
約20年この仕事をしていますが、「安定している」と思ったことは一度もありません。このようなことをお聞きになるとガッカリされるかもしれませんが、これが偽らざる気持ちです。
たとえ、経営状態が良好であっても、策を打たなければ、その状態がそのまま継続していくということはまずないからです。
あらゆるビジネスの目的は「持続的な利益」です。そのために、日々、目の前の依頼を一つひとつ丁寧かつ速やかに遂行することと同時に、戦略を描きながら事業を行っています。
A28.「安定している」と思ったことは一度もない。
Q29.出版
開業したら本を出したいと思います。本を出すにはどうしたらよいでしょうか。
本を出すこと自体は簡単です。お金さえ積めば自費出版で出せます(200万円程度は必要らしいです)。
ただし、商業出版の場合はそういうわけにはいきません。本を出すためにはいくつかクリアしなければならないことがありますが、まずは出版社が「この内容なら売れる」と思える企画書を出せることが条件になります。
もちろん、最初から出版社の目に留まる企画書を書き上げることはふつうできません。そこで、まずは「コンテンツ」を書き留めることから始めることをお勧めします。コンテンツというとなにやら難しく感じますが、気づいたことや閃いたことを箇条書きで書き留めたものもコンテンツの一つです。
開業準備の内から、専門分野に関する知識や情報を書き留めておけば、開業後のホームページやブログ等のコンテンツとしても活用できます。
そして、「この企画ならいける!」というものができたら、出版社に持ち込んでみてはいかがでしょうか。
A29.出版の第一歩は「コンテンツ」作りから。
Q30.食える・食えない
ズバリお聞きします。行政書士で食えますか。
お約束の質問ありがとうございます。この「伝統的な質問」に対しては、「顧客に認められれば食えるし、認められなければ食えない」という至極当たり前の答えしかご用意できません。
行政書士の顧客は取り扱う分野を問わず、「今抱えている切実な問題を速やかに解決したい」と願っています。したがって、その願いを叶える能力があれば、受任率も高いでしょうし、難易度の高い問題を解決できる能力があれば、報酬も自ずと高くなるでしょう。
したがって、「行政書士」という資格のカテゴリーで「食える」「食えない」を論じること自体無理があると思います。
A30.顧客に認められれば食える。認められなければ食えない。