開業で“しくじらない”ために〜合格者へ贈る10のメッセージ

行政書士試験合格者の皆さま、おめでとうございます

勤めながら試験勉強をした方、退職して勉強に打ち込んだ方、子育ての隙間時間を利用した方など、お一人おひとりそれぞれの努力が「合格」という成果に現れたことに、こころからお祝いを申し上げます。

私は16年前の平成13年12月3日に開業しました。以下の文章は、16年間の私自身の行政書士活動と約30年間の社会人経験を基に、「これを知っていれば、開業してしくじらない」という視点で作成しました(「こういうことを16年前の開業前に言ってくれる人がいたら助かったのに」と自分で思える内容です)。
自分の「好き」を仕事にするために、少しでもご参考になれば幸いです。

その1.
行政書士を利用する 行政書士に利用されない

人生を豊かにするために、行政書士という資格を利用してください。「私は、好きな〇〇を仕事にするために、行政書士になる」というのがまともな考えです。「私は、行政書士に受かりました。だから行政書士になります」では動機が浅薄過ぎます。行政書士という資格に利用されてしまう危険があります。お気をつけください。

その2.
成功の法則はない

「こうすれば成功する」といった成功の法則はこの世に存在しません。もし、成功の法則を発見したらノーベル賞を受賞できるでしょう。この世に存在しない成功の法則を追い求めて時間とお金と能力を無駄にしないようにしましょう。
だから、「こうしたら集客できて受任できる」といった法則はもちろんありません。「では、どうしたらいいんだよ」という方へは「あきらめが肝心です」というしかありません。ただ、ここでは「法則はないけど戦略はある」と申しておきます。

その3.
情報の豊かさは注意の貧困をもたらす

行政書士に関する情報は予備校、行政書士のブログ等、湯水のように溢れかえっています。うっかりすると、情報の海に溺れて貴重な時間とお金を無駄にした挙句、迷走してしまいます。そこで、情報について、正鵠を射ている次の言葉を贈ります。

われわれは大量の情報が氾濫する時代を生きている。しかし、情報それ自体には意味はない。人間がアタマを使って情報に関わってはじめて意味を持つ。
人間と情報をつなぐ結節点となるのが、「注意」(attention)である。人間が情報に対してなんらかの注意をもつからこそ、情報がアタマにインプットされ、脳の活動を経て、意味のあるアウトプット(仕事の成果)へと変換される。組織論の分野で活躍し、ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンは、「情報の豊かさは注意の貧困をもたらす」という名言を残している。「情報」が増えれば増えるほど、一つひとつの情報に向けられる「注意」は減るわけだ。(以上『経営センスの論理』楠木健著、新潮新書219頁から引用)

実際、このメッセージや私が主催する「行政書士合格者のための開業準備実践ゼミ」もその一つです。だから、もし、私が発信する情報が無益と判断したら、今後見ないことをお勧めします。

その4.
すぐ手に入るものほど、すぐ役に立たなくなる

すぐ手に入るものほど、すぐ役に立たなくなるのは世の常。相談者は付け焼刃の知識を一瞬で看破します。ちなみに、ホームページをアップしてすぐさま依頼がくることはまずありません(もし、このようなことがあったら、逆に警戒した方がよいでしょう)。

その5.
開業の目安は、「依頼者に迷惑をかけない」と思えたとき

開業、すなわち行政書士の登録は、自分が専門としようとする分野の相談を受任したら、依頼者に迷惑をかけないと思えてからしましょう。依頼者に迷惑をかけるとは、一言でいえば「仕事が遅い」ということです。なお、業務に潜む“落し穴”を知ってから開業することは「身を守る」観点から重要です。

その6.
「数字」よりも「筋」

「売上目標1千万円」といった数字よりも、「こういう人に、こういうサービスを、こうやってお届けする、するとサービスを受けた人はこうなる、それから・・・」といった筋(ストーリー)が大切です。
ちなみに売上1千万円は市場に低価格で挑めば達成できます。しかし、当然忙しい割に利益は得られず心身共に疲労困憊になります。当然、継続的に利益を得ることはできません(経営の目的は継続的に利益を生み出すことです)。
なお、数字で大切なのは売上ではありません。税引後利益です(もし、自分の売上を強調するコンサルがいたら「税引後利益を教えてください」と質問してみてください。きっと、嫌な顔をするでしょう)。

その7.
好きなことを専門分野にする

好きなことを専門分野(つまり、仕事)にしてください。「儲かりそうだから」といった低い意識で選択しても、専門性は身に着きません。ふつう、人は好きでなければ熱中できないからです。熱中できなければ狭く深く学びません。狭く深く学ばなければ専門性は習得できません。
「行政書士業務の中に自分の好きなことは見当たらない」という方は、開業しないでください(もしくは行政書士業務の中に好きなことが見つかってから開業してください)。自分が不幸になるだけでなく、罪のない相談者も不幸にします。
なお、「専門分野を持つべきか」といった論議をたまに見受けますが、そもそも専門性がなければ受任できません。せいぜい無料相談止りです。なぜなら、相談者は行政書士を専門家と見込んで相談に来て、専門性が確認できたら依頼をするからです。

その8.
相談者を魅了して受任できる

相談者は、自分が抱えた問題を、まず自分でなんとか打開しようとします。インターネットで調べたり、無料相談会に行ったり、詳しい人に聞いてみたり・・・、色々手を尽くします。それでも解決できないから専門家に相談するのです。
だから、専門家の目の前に現れたときには、相当の知識を習得しています。その相談者を面談の場で、「さすが、先生!」と唸らせるパフォーマンスができなければ、受任はできません。相談者を唸らせるパフォーマンスとは、問題解決までの道筋を相談者にわかりやすく明らかにすることです。

その9.
できないことを「できる」と言わない

ホームページに掲載した内容を受任したのにすみやかに解決できなかったり、許可の要件を満たしていないのに「許可を取得できます」と言って受任してしまうなど、できないことを「できる」というと嘘つきになります。噓をついた相手に迷惑をかけると懲戒処分や慰謝料を支払うなど、当然ペナルティーが科せられます。十分注意しましょう。

その10.
実務はスピードが命

全ての依頼者は、「一刻も早く、自分が抱えている問題を解決してスッキリしたい」と思っています。そのためにわざわざ相当のお金を専門家に払うのです。だから、業務遅滞はクレームに直結します。なお、「正確」に実務を遂行するのは当り前です。

平成29年1月31日

竹内行政書士事務所
代表 竹内 豊